デス・オーバチュア
第299話「ドラクルROSIE(赤い竜)」




「……遊びが過ぎた『罰』といったところか……」
アッシュは地面に仰向けになったまま呟く。
「それにしても割に合わぬ『罰』だ……私の大事なツェリザカが……」
彼女が両手で握っている黒銃は、銃身が綺麗に切り落とされていた。
「くっ……つい咄嗟に避けてしまった我が身が憎い……」
突き破る熱閃と切り裂く光刃……勝ったのは後者の方。
光刃は熱閃を四つに引き裂くと、そのままアッシュにも迫った。
アッシュは咄嗟に後ろへ倒れ込むことで、罰点の下を擦り抜けたのだが……その際に愛銃の長い銃身だけは光刃に触れてしまったのである。
「ああ~、銃を投げ捨てて、罰を我が身で受けるべきだった……」
常人には理解不能の後悔をしながら、アッシュはふらふらと立ち上がった。
「……さてと」
アッシュは何とか気を取り直し、魔断罰交刃を放った体勢で『停止』しているアルブム・アルゲントゥムへと歩み寄る。
「これが本当の殺し合いなら、相手を滅する前に止まってしまった貴様の負けだが……これはあくまでも遊戯……そして……」
「hold up!」
アルブム・アルゲントゥムの頬にアッシュの手が触れようとした瞬間、制止する声が上がった。
「ホールドアップ(手を挙げろ)……はおかしくないか? いつから強盗になった銃士(ガンマン)?」
「NO! 銃で他人を制止するセリフはこれしかないネ!」
二丁の散弾銃を突きつけているバーデュアの両手首は健在で、腰もしっかりと填って直立している。
「予備(スペア)の手首か。便利だな、人形は……」
「YES! 備えあれば熟れないネ!」
「……それを言うなら憂いなしだ。ちなみに意味は……こういうことだ!」
アッシュはバーデュアの方を振り向きもせず、玩具のような外観の自動拳銃(オートマチック)を持った左手だけを向けた。
自動拳銃から『小銃弾を小型にしたボトルネック形状の弾丸』が素早く発射される。
「NOOOOっ!? 初速がスピーディ!?」
バーデュアは連射される弾丸を怪しげな動きで回避しながら、後ろに退っていった。
「いったいいくつ銃を隠し持っているネ!? 備え過ぎヨっ!」
「貴様にだけは言われたくないが答えてやろう、『手持ち』は七丁だ」
アッシュは自動拳銃を撃ち尽くすと、あっさりと後方へ投げ捨てる。
自動拳銃は地面に落ちることなく、アッシュの背後の空間に溶け込むように消え去った。
「P90×2」
アッシュが両手を突き出すと、それぞれの手に『長方形で奇抜なデザインの短機関銃』が出現する。
「えっと、ライフル、ソウドオフの散弾銃、リボルバー×2、オートマチックと……」
「つまり、この二丁でラストだ!」
二丁の奇抜な短機関銃から、自動拳銃と同じ種類の弾丸が速射された。
「NOOOOOOOOOOOOOO!?」
バーデュアは二丁の散弾銃を発砲するが、散弾(それ)で迎撃しきれるわけもなく、短機関銃の掃射からは逃げ回るしかない。
「やはり、貴様の相手は玩具だけで充分だな」
アッシュはアルブム・アルゲントゥム戦と違い弾丸に『熱気』を込めてはいなかった。
「NO! ME舐められてるネ!?」
「それ以前に、もう帰るつもりだったのだがな……」
弾丸の尽きた短機関銃を放り出すと、アッシュはやれやれといった感じに両肩を竦めてみせる。
「OH! ME余計なことしたネ? YOUはオーバライン姉さんに危害加える気なかったネ?」
「ああ、己の敗北を認める発言をしようとしたところを、貴様に襲われたわけだ……」
アッシュはそう言いながら、水平二連式の狩猟用小銃を『喚び出し』て両手で構えた。
「What!? 言ってることとやっていることが違……」
「ふふん♪」
「それにさっきの二丁でラストって言ったはずネ!?」
「言ったとも、P90×2で七つの武器全て見せたとな……」
「ラストってそういう意味ネエエエェェッ!?」
「納得いったなら受けて貰うぞ、我が最大の一撃~♪」
彼女の両手だけでなく、小銃自体が灼熱色に光り輝く。
「納得いかないヨ! なんでMEが撃たれなきゃいけないネ!?」
「超王烈渦炎熱閃砲(ちょうおうれっかえんねつせんほう)! ロイヤルサイクロンフレアァァァァッ!!」
「この悪魔(デビル)ウウウウウウウウゥゥゥッ!」
灼熱色に輝く小銃から、超々烈々の旋状炎熱閃が撃ち出された。




「正解だ。というか、私が悪魔なことは最初から解っていたはずだが?」
旋状炎熱閃が炸裂し、バーデュアは烈火と熱閃の大嵐のような超爆発の中に消えた。
「ちなみに貴様を撃った理由は……実は無い」
銃口を向けられたぐらいで、普段はあそこまではしない。
ただ単に、最大技を使うことなくアルブム・アルゲントゥムとの決着が付いてしまい、欲求不満だったのだ。
「ん?」
突然巻き起こった白煌の神風が、全ての炎と熱を吹き飛ばす。
「ふふん、余計なことを……」
「OH、悪魔に襲われ、悪魔に助けられてしまったネ……」
「悪魔じゃなくて堕天使と呼んで欲しいのだけど……」
跡形もなく『焼滅』しただろうと思っていたバーデュアは健在で、彼女を庇うように白煌の天使(ファースト)が立ちはだかっていた。
「堕天使? 堕ちた天使(フォーリンエンジェル)?」
「あら、悪くない響きね」
ファーストは嬉しそうに微笑う。
「…………」
「…………」
アッシュの無言の視線に気づき、ファーストもまた無言の視線で返した。
「……ふふふっ」
「……ふふん」
無言で話がついたとばかりに、二人は微笑し合う。
「さて……」
アッシュは観客(ギャラリー)になっていた者達に視線を移した。
「帰って構わないか?」
「…………」
「帰れ帰れ帰れ帰れ! さっさと帰れっ!」
タナトスが口を開くより早く、皇牙が吠えるように捲し立てる。
「ふふん、引き留められたから残ったのだがな……それでは、帰るとしよう。ドラクル!」
アッシュが名を呼ぶと、無人の赤い馬威駆が駆け寄ってきた。
「では、次に会うのは『祭り』だな」
馬威駆に跨ると、アッシュはタナトスを一瞥する。
「待て、祭りというのは……ガルディアの?」
「他に何がある? 血を新しくしするための血祭り、皇位争奪の殺戮祭(さつりくさい)……そして、聖皇剣覚醒のための儀式……」
「血祭り? 殺戮祭? 聖皇剣?」
「……疑天使達(アルコンティス)にとっては復活祭(イースター)でもあるがな……」
アッシュは聞き取りにくい小声で呟いた。
「んっ、今なんと言った?」
「さあな? まあ、詳しいことは使者か上司にでも聞け……いや、来れば解ると言っておくか」
「……来れば解る……か」
「そう言うことだ。今宵の上弦の月が満ちるまでの八……七日間が祭りの本番(本戦)……貴様はただそれを生き抜くことだけを考えろ」
「…………」
「では、月満ちる夜にでもまた会おう……それまで貴様が生きていればの話だがな」
赤い馬威駆はふわりと浮かび上がり、『真上』へと上昇していく。
「ああぁっ!? 何よ、飛べたんじゃないのよ!」
皇牙が悲鳴のように抗議の声を上げた。
これが物理的に有り得ない移動の種明かし。
『科学技術の乗り物』というイメージゆえに、魔術魔法的な機能(能力)が発想できなかったのだ。
「雑種の『科学』なんてまだ飛行まで至ってないはず……」
科学と魔術が交錯した『魔導』という古の技術ならともかく……。
「いや、西方だけはその域に達しつつあるぞ。もっとも、私の馬威駆は超骨董品(魔導時代の遺品)でもなければ、西方の新製品(最新鋭機)でも裏世界の輸入品でもない……」
皇牙の思考を読んだかのように、アッシュは答える。
「『ドラクルROSIE』とは、神話の時代から進化し続ける私の騎乗獣(愛馬)だっ!」
赤い馬威駆が質量を無視して『巨大な赤竜のような形態』へと変形し、アッシュはその背の上に立ち乗っていた。
「……赤い竜?」
「こ……この……」
「皇牙?」
「この外道オオオオオオオオオッ! 下種の極みがぁっ! 竜を『改造』したなああぁっ!?」
「ううううぅぅっ!?」
怒髪天を衝く……という言葉を実践するかのように、皇牙は髪を逆立て、全身から青き闘気を天を貫かんばかりの勢いで放出させた。
「超!」
皇牙は両手を前方で激しくぶつけ合わせる。
「竜!」
重なった両手首が竜の口を形作り、口内に青き光球が生まれ、急速に輝きと巨大さを増していく。
「よせ、皇牙っ! 地上を消し飛ばす気かっ!?」
「『上』に向かって撃つから大丈夫よ!」
「ふふん、吹き飛ぶのは月か太陽かといったところか?」
「波ァァァッ!!!」
「Great red dragon that old s……んんぅ?」
竜口から吐き出される、青き巨大な光球。
呪文のような言葉を唱えようとしたアッシュの前に、天から飛来した何か(未確認物体)が割り込んだ。
何かは急回転し、巨大な青き光球を空の彼方へと弾き飛ばす。
「何あああっ!?」
「超竜波を逸らした!?」
『…………』
驚愕する皇牙とタナトスを尻目に、何かはゆっくりと地上に降り立った。















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